フィールドシンポジウム・億首川 in 金武町・ネイチャーみらい館2
「マングローブ・河口干潟の保全とその技術に関するフィールドシンポジウム・億首川」
2日目、ネイチャーみらい館でのシンポジウム。
僕たちの研究室の竹村の研究の礎となっている論文の著者である中須賀先生、マングローブ内の生物群集をずっと調査されてきた諸喜田先生の、沖縄に根をはってマングローブを見続けてきた方々からのリアリティに満ちたお話し。
ネイチャーみらい館の外間(ほかま)館長のビジョンに満ちたお話し。マングローブ案内をする5つの業者との間で、同時間帯に60艇以上のカヌーが出ないようにするとのルールづくり。大変だったらしい。ネイチャーみらい館のスタッフは地域出身者で、カヌー体験のみならず、田んぼなどでの農作業体験もプログラムに取り入れ、観光を核として農家に還元していこうとしていること。そして、億首川の状況把握や、文化継承のためのモニタリングをやっていきたいという、力強い意志表明。
外間さんは、もともとは建設業に携わっていた人。その仕事が冬に集中することもあり、もっと地域に安定した産業を根付かせたいという想いから、「ふくらしや自然体験塾」という会社を立ち上げた。それがもととなって、ネイチャーみらい館ができ、運営のためにNPOを設立した。現在は、修学旅行等で7000人が訪れるようになった。
学位論文の仕事でリュウキュウアユの自然再生を手伝っている大槻さん(九州大)、干潟があることで、リュウキュウアユの生息に必要な低水温を保つことができるということ。
鍵田さん(北部ダム事務所・環境課長)からは、ダム事業とそれに関連する環境影響評価に関する情報提供。億首ダムは平成23年度末に完成予定。今、すでにある金武ダムと比べると、ダム堤体の高さは約3倍、貯水量は10倍になる。ダム供用後には、洪水発生頻度は1/10程度になり、年最大流量も10トン程度に減少する。マングローブの生育に必要な塩分濃度が保てるかどうかが、環境影響評価における重要な視点の一つであり、塩分濃度が30‰以上となる日が、現況と同程度になることが正常(維持)流量0.07トンの根拠。河川周辺からの地下水の供給状況や、流量の激減による土砂移動の変化については把握しきれていないらしい。鍵田さんをはじめ、北部ダム事務所の方々は、億首川のマングローブが地域の中で持つ意味を十分に理解していて、とても積極的に情報提供してくれ、また、議論に加わってくれた。
そして竹村(徳島大)からは、中須賀先生のデータをもとにしたマングローブのポテンシャル解析と、ポテンシャルの高い億首川での土砂移動シミュレーション。中須賀先生から、いい仕事だとほめていただき、胸をなでおろした。
皆さんの話を聞きながら、以下のように総合討論を進めることに。外間さんを核とした、億首川マングローブに関する情報共有の場づくりや、地域が主体となったモニタリングを進める気持ちを後押しすることが、このシンポジウムの意図であり、僕の役割。少し緊張したけれど、パネリストの中須賀先生、赤松先生、神谷先生、宮良さん、また、会場の諸喜田先生、外間さん、鍵田さんからの積極的な発言で、次につながる話となった。
「地域の人がしっかりとがんばりなさい、ここは近いからいつでも来て相談にのれるから」、といったような、諸喜田先生から外間さんに対して寄せられた励ましの言葉が印象的だった。
このシンポジウムは、応用生態工学会・那覇の宮良さんのマネジメント、そして、(財)沖縄県環境科学センターのサポートにより実現した。外間さん(ネイチャーみらい館)には会場使用料やバーベキュー費用をめいっぱい安くしてもらった。そして、北部ダム事務所からも、現地の案内やマイクロバスの利用など、大きな支援を受けた。うれしかったことの一つは、沖縄のいろいろなコンサルタントの方々がかけつけてくれたことだ。現場で、また、バーベキューの場で、今までこうした情報共有の場がなかったこと、そして、皆で話ができ情報を共有できることの喜びを、語ってくれた。このシンポジウムの開催をとおして、この地での協働の一歩が始まったという感覚を得た。
このシンポジウムを那覇でという話を押し戻しながら、ネイチャーみらい館で開催して本当によかったと思う。そして、これをどのような形で継続し、発展させていくか、応用生態工学会・那覇の責任も重い。
この場を創ってくださった皆さん、どうもありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。
ちなみに、ネイチャーみらい館は、バリ島のリゾートのようなたたずまい。とても贅沢な気分にひたれる。そして、シンポジウム当日は高校野球・甲子園の決勝戦。沖縄の興南高校が13-1で勝ち、春夏連覇。ネイチャーみらい館の施設内には地域の人が集まり、歓声をあげていた。おめでとうございます。
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(1)講演
1) 10:05~10:35 中須賀 常雄(琉球大学・名誉教授)
マングローブ林の成立条件と億首川のマングローブ
2) 10:35~11:05 諸喜田 茂充(琉球大学・名誉教授)
マングローブ林の水産上の役割と億首川のマングローブ
3) 11:05~11:35 外間 慎仁(ネイチャーみらい館・理事長)
億首川のマングローブ林と地域のみらい
4) 11:35~12:05 大槻 順郎(九州大学大学院工学府)
干潟による河口水温の保全とその効果
5) 13:30~14:00 鍵田 和彦(北部ダム事務所・環境課長)
億首ダム下流のマングローブ林の保全対策の検討について
6) 14:00~14:30 竹村 紫苑(徳島大・院・先端技術科学教育部)
億首川マングローブ林の位置づけと土砂動態・物質輸送
(2) 総合討論 14:40~15:40
コーディネーター
鎌田 磨人(徳島大・院・ソシオテクノサイエンス研究部・教授)
パネリスト
中須賀 常雄(琉球大学・名誉教授)
赤松 良久(山口大学工学部・准教授)
神谷 大介(琉球大学工学部・助教)
宮良 工([財]沖縄県環境科学センター
総合環境研究所・所長)
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