コウノトリの野生復帰 ー ワークショップとシンポジウム
5月27日、「コウノトリの野生復帰に関する国際ワークショップ」 、そして、5月28日、シンポジウム「地域づくりのたねとしかけを国際発信する〜ジオパークとコウノトリ、そしてハチゴロウの帰還」。近畿大学豊岡短期大学にて、但馬県民局とコウノトリの郷公園が主催。
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● 5月27日、「コウノトリの野生復帰に関する国際ワークショップ」
豊岡で進められているコウノトリの野生復帰事業。そのゴールを考えるための国際ワークショップ。午前中の第1部は、“コウノトリの郷公園”のスタッフによる研究結果紹介。そして、韓国で進められているコウノトリの野生復帰プロジェクトの紹介。
特に、内藤さんによって紹介されたコウノトリの営巣場所選択の生態学的モデルとその解釈は印象に残った。他の“つがい”が持つ巣の場所からの視認性が悪
く、一方で、餌場である平野部に対する視認性が良いという2つの空間的条件を満たすことが必要という。実際、大迫さんによれば、種内の個体間の攻撃性が強
く、なわばりがオーバーラップするようなところでは、雛を捕食したり、巣から放り出すというような行動も見られるという。現在の人工巣塔は、営巣地として
の空間的特性を考慮して設置されていないので、今後、巣塔を移すなどの措置が必要かも。また、豊岡盆地内では7ペア分の空間しかなく、今まで目標とされて
きた14ペアの野生復帰を目指すためには、豊岡周辺地域も一緒になって取り組まなければ難しい。
そして、午後の第2部は、アホウドリ、シジュウカラガン、トキといった、日本国内で行われてきた鳥類の個体群回復あるいは野生復帰事業の過程と、それらが目指す目標について。それぞれに、とても大きな努力のもとで個体群の回復が図られている。けれども、繁殖地が人の生活空間から離れた場所にあるアホウドリやシジュウカラガンと、水田地域の中で繁殖を行うコウノトリやトキは、個体群回復のあり方・目標の立て方は異なるはずだ。鳥の個体群の回復と地域の生活の向上が、同時に図られていかなければならない。
それに対して、江崎さんから示されたコウノトリの野生復帰事業の目標は以下のようなもの。まず、短期的には、安定した野生個体群を確立すること。中期的には、国内の生育適地への分散・定着・繁殖。そして、最終的には、国内に安定的なメタ個体群構造を創り上げること。この目標は全く正しい。が、そこに人の生活の有り様は見られない。目標とするのは、コウノトリの野生復帰をとおしてどのような生態系を再構築し、そして、その生態系から地域の人達がどのような生態系サービスを得ていけるようにするのかが示されるべきでなかっただろうか。また、国内のみならず、ロシア、中国、韓国との連携のもとで、より大きな地域でのメタ個体群の確立を目指していくべきだろう。
P.J. Seddonさんから示された、「保全のための野生生物の移動 Conservation Translation」の考え方によれば、それは、大きくは「個体群修復 Population restoration」のための移動と、「保全のための導入 Conservation Introduction」に分類される。そして、個体群修復のための生物移動は、「補強 Re-enforcement」と「再導入 re-introduction」に区分され、保全のための導入は、「手助けによる移入 Assisted Colonization」と「生態学的置換 Ecological Replacement」に区分される。生態学的置換とは、ある種の絶滅によって特定のニッチが空いた場合に、そのニッチを埋める他の種を導入するなどして、新しい生態系を創造するというもの。日本でも一部の研究者が検討しているオオカミの導入などが、それにあたるのだろう。ただし、リスクは大きい。
<第1部のメモ>
・コウノトリの営巣場所を決めるのは、自分の巣が他個体からどれくらい見えにくいかと、餌をとる平地・水田がどれくらい見通せるかという、2つの可視領域が重要。by 内藤さん
・ロシアと中国の繁殖地に、日本と韓国の繁殖地が加わることで、メタ個体群としてのリスク回避のしくみができる。by 大迫さん
・韓国でもコウノトリの郷公園のような施設ができつつある。2017年に放鳥予定。農家の情熱も高く、コウノトリを育む農法を実践する人もどんどん増えて
いる。コウノトリの野生復帰で、地域にどんな利益が生まれるのかという視点は、韓国でも大事。人里の鳥だからこそ、地域の人の暮らしとの共存が必要。そし
て、北朝鮮でも野生復帰させたい。by Yoonさん
・日本のコウノトリのハプロタイプは、13タイプしかない。他地域からの遺伝子導入を図っていかなければならない。by 山本さん
・発表に対するコメント、1番め。わかりにくいけど、要は、生態学も大事だけど、遺伝的変異の評価も大事だから、遺伝学と連携せよ、ってことみたい。コウ
ノトリの社会性、人との社会的距離感に関する菊地さんの講演に対して、「農薬の種類の違いによる、コウノトリへの影響も調べなければ」、なんていうのは論
点がずれまくっている。
・コメントの2番目は、コウノトリの郷公園の研究部長から。「まだ何が正解か、野生としてね正常性とは何かなど、まだわかっていない。だからこそ、順応的な管理が必要」。ふむ。
・会場の佐藤哲さんからの的を得たコメント。コウノトリの放鳥事業にともなって、生態系、あるいは生態系サービスの質がどのくらい向上したか、そういった視点から評価が必要ではないのか。また、営巣地である里山整備も必要では。
<第2部のメモ>
・乱獲で絶滅寸前だったアホウドリ個体群の再生過程についての紹介。営巣地場所の表土浸食が繁殖を妨げていたため、ハチジョウススキを移植、そして砂防工
事による土どめ。さらにリスク分散のための、デコイと鳴き声を使った新しい場所へのコロニー導入。アメリカ国内での底はえ縄漁による混獲が、アホウドリに
とって大きな絶滅リスク。アメリカで絶滅危惧種に指定されたのに対応して、2年間で4羽以上の混獲がおこった漁場は閉鎖するという措置がとられるように
なったらしい。アメリカでは、絶滅危惧種のために、こんなこともできるんだ。
・シジュウカラガンの回復過程についての紹介。民間ベースで進められたこの事業はすごい。シジュウカラガンは、繁殖地であった190の島に、毛皮を取るた
めにキツネをはなしたことで、絶滅寸前となった。キツネがいなくなった島に越冬地となる伊豆沼で捕獲したシジュウカラガンを運び、放鳥することを続けてき
た。その結果、伊豆沼に戻ってくる個体数が増えた。1000羽以上に回復させ、かつてと同じだけの数のシジュウカラガンが伊豆沼に舞うことがゴール。
● 5月28日、シンポジウム「地域づくりのたねとしかけを国際発信する〜ジオパークとコウノトリ、そしてハチゴロウの帰還」
松原さんからジオパークについての説明。ジオパークとは、地域の特色を学び楽しむところ。「風待港」という言葉が心に残った。硬い火山岩と柔らかい堆積岩のモザイクがリアス式海岸をつくる。壁のように残った火山岩の地形が、風よけとなって、船は、強い風がやむのをそこで待った。それが、風待港。地質学的な過程が、人の生活・風土を創っていることを象徴している。
そして、佐竹さんによる「ハチゴロウ」の思い出と、それが地域に残したもの。ハチゴロウは、野生復帰事業を進める中、豊岡にやってきた野生のコウノトリ。8月5日にきたから、ハチゴロウと市民が命名した。ハチゴロウは、地域にとても大きなインパクトを与えた。飛んでる姿が見られる時には、小学校では校内放送が流れた。そして、野生復帰のために放鳥されたコウノトリが水田に降りると、稲を踏み倒して収量を下げると、野生復帰事業に懐疑的だった農家の人たちも、直接観察・調査によって、大きな害を与えるものではないとの認識に変わった。ハチゴロウが飛来し、いついた水田を、湿地に復元してコウノトリの餌場、繁殖地にすることとなった。ハチゴロウは他の個体との争いによって死亡してしまったけれど、その後、戸島湿地には放鳥されたコウノトリがいついた。また、そこをあしがかりに、近くの休耕田にもコウノトリが飛来した。それがきっかけとなって、地域住民が、休耕田を湿地に再生するための活動を行うようになった。そして、今は、豊岡盆地一帯の湿地を、ラムサール条約に登録するための動きへと発展してきている。
こうした、コウノトリを巡る地域活動の発展・活性化こそが、野生復帰の成果なのだろう。コウノトリと地域の人との関わり合いが、新しい物語を生み出し続けている。
残念ながら、総合討論は今一つだった(27日のワークショップの総合討論もそうだったけど)。おとしどころなく、迷走する感じ。討論の進行側に、「人の生活、地域の暮らし」という視点がなかったからだろうか。。 たくさんの題材があったのに。
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