(財)自然環境研究センターが環境省からの委託により進めている「生物多様性評価の地図化業務」に関するヒアリング。13時〜15時20分、環境省にて。
「平成22年5月に公表した生物多様性総合評価に続き、全国の生物多様性の状況や変化を地図化するもので、昨年度より検討会を開催している。そして、地方公共団体で生物多様性地域戦略を策定する際や、実際に保全活動を
実施する際にも活用され得るものにしていきたいと考えているので、現在作成中である各種評価地図などに関してヒアリングしたい」との依頼による。
ちなみに、生物多様性総合評価の成果は2010年5月に公表されており、報告書の全文が環境省のサイトからダウンロード可能。
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以下、今日のメモ。僕の名前(鎌田)が入っていない発言は、環境省あるいは自然環境研究センターの方からの発言。
1.評価地図
(1)Satoyama Indexについて
・我々も作成しており、1kmメッシュ内の農地、森林、宅地で多様度指数(Shannon-Wienerの多様度指数)を求め、日本全体の多様度地図を作成した。里山100選や里山モニタリングサイトの選好性と合わせるとH>0.6を里山地域として抽出できることがわかっている。農地だけよりはこちらの方が良い。(鎌田)
→元々は世界を対象に、二次的な自然がある場所を抽出する際に用いた手法を採用している。
→里山イニシアティブでは、里山を宅地と農地と森林がモザイク状にあると定義している。その定義に従い構造から分析するのであれば、森林を入れた方がよい。(鎌田)
→1kmメッシュでも解析は可能である。土地利用は、国交省の100m細分メッシュを元
にしている。データを提供することはできる。(鎌田)
・里山地図がたくさん出ているので、これを機に環境省としての里地里山の定義を決めた方がよい。里山の定義も時代によって変わってきている。SATOYAMAイニシアティブが区切りだと思うので、これに合わせるような形で再整理する必要がある。(鎌田)
(2)無居住地化地図について
・流域単位で撤退できるのであれば、そこにある砂防ダム等の生態系過程を妨げる人工構造物を撤去した上で撤退すれば、生態系は自然の過程によって修復されるはず。課題はシカで、どのような影響が出るかわからない。(鎌田)
(3)重要な沿岸生態系について
・干潟から海に近いところがかなり抜けている。
→シギチを出しているが、それだけで良いのかという問題がある。シギチが来るところがなぜ良いのかの、説明の仕方が重要。
→シギチがどのような環境を指標しているのかを、しっかり示す必要がある。また、その変化やポテンシャルが高いがいない場所の意味を見極め、修復する手法と目標を示す必要がある。ポテンシャルマップは今後どのような施策を取るべきか(保全か再生・修復か)を考えるための地図である。(鎌田)
→熱心な企業は敷地に緑地を作ったりしているので、ポテンシャルマップは、どういった場所で再生をしたらよいか判断する材料になる。
→徳島は徳島ビオトーププランを作っている。自然林の距離が短く、連結しやすい場所などを示している。企業にとっては、そのような行政の方針を示した地図があった方が活動しやすい。(鎌田)
(4)絶滅危惧種関連の地図について
・調査努力量の問題がある。できればポテンシャル図にした方がよい。(鎌田)
・絶滅危惧種のⅠ類Ⅱ類が入っているが、全て同じ重みでよいのかという問題がある。KBAは良い手法である。(鎌田)
→KBAと同じデータを使っている。KBAは植物が入っておらず、淡水魚に引っ張られる。
(5)シカについて
・出猟カレンダーのデータを元にすると良い。兵庫県や徳島県では、出猟カレンダーを元にモデルを作成している。(鎌田)
→時間スケールを入れた方がよいのか。
→3時期のデータがあるが、場所によって拡大速度が異なる。
→細かいデータが必要となるので、地域で個別に作った方がよいだろう。(鎌田)
(6)アライグマについて
・このへんから対策をとらないといけないということを示している地図なので、移動可能性が大小という表現はよくない。これを見て自分のところは安心だと思われても困る。(鎌田)
2.竹林
・環境省の植生図を元にしているが、植生図では竹林が抽出されていないことがあり、島根では竹林が存在しないことになっている。モデルを作成してポテンシャルマップを作成したので、これであれば感覚的に合う。(鎌田)
・都市の人は竹林を切りたがっている。東京から伊豆まで切りに行っている団体がある位である。人手のある都市と人手のない地方とでは、竹林拡大への施策としての対応の仕方が異なる。徳島では誰も興味を持っていない。(鎌田)
・人口減少が著しい場所での、竹林拡大への対応は大変である。大分の竹灯りプロジェクトを行っているが、ボトムアップの対策が必要である。(鎌田)
3.窪地
・環境省の仕事で水草ポテンシャルマップを作った。RDBメッシュデータを使用し、10kmメッシュで解析した。分布メッシュが重なる種群をグループ化し、グループ毎に地形と気候条件をパラメータとして推定した。窪地(10mDEMデータから作成)がけっこう効いていた。窪地マップを作ると良い。(鎌田)
・東北大震災の津波の後に水浸しになった場所は、窪地マップとぴったり合っていた。生態系の調整サービスや防災計画を考慮し国土計画を作る必要があり、このような視点を徳島の戦略に取り込みたい。(鎌田)
4.カルテ
・Viewerソフトを一緒に提供できるとよいだろう。(鎌田)
・国有林と私有林を分けた方がよい。また、県の保護区もわかるようにした方がよい。色々な保護区があるが、どこまでを保護区とするかは整理が必要である。(鎌田)
5.全体
・国交省も生態系ネットワークに関する業務で同様の地図を作成している。国交省と連携して進めるべきである。(鎌田)
→国交省の担当には検討会に出席してもらっている。データや地図の更新を考えると環境省だけでは無理である。
・地図を使うユーザーをどこに設定しているのか。(鎌田)
→環境省を主に考えている。自治体も想定しているが、このスケールだと難しい場合もあるので、使えるものは使ってもらうということを考えている。地域によっては細かいデータがあるので、地域に応じて考えてもらえれば良い。徳島であればこういう特徴があるので、こういうものは守って欲しいということが見えてくれば良いと考えている。
・ポテンシャルマップ作成を躊躇していた理由は、希少種の保護をする時に、分布が確認されていないがポテンシャルの高い場所に、保護の網をかけることはできないからである。再生を考える際にポテンシャル図を使用できると考えている。
→ポテンシャルマップは再生・修復の効率化のために使用するべきもの。ポテンシャルが低い場所に再生の労力を投入すべきではない。またポテンシャルが低い場所を保護するというのは意味がない。かつての状態がわからない場合が多いので、土地利用のパラメータを入れずにポテンシャル図を作成し、土地利用がパラメータに入った時に、リスクがどう上がるか比べられるような地図の方が使い勝手が良い。(鎌田)
→ポテンシャルマップは、環境の指標性が高いものについて作成すべき。例えば生態系別(森林・里地・水辺など)ごとに指標種(群)を出して、そのポテンシャルマップを作成して生態系のモニタリングにつなげるのが適切。(鎌田)
・国のデータは全てが同じ精度ではない。そこからあがってくるデータを演繹的に使えるようにするかが、情報の加工技術としては重要である。今までその手法がなかったが、新しいモデルができているので、様々なことがわかるようになってきた。(鎌田)
・生態系別に、指標性も含め環境と対応する種群を抽出した上で、分布マップをタイプ別に作成しないと、使う側としては困ってしまう。エコリージョン区分とそれを指標する希少生物群を対応づけることができれば、モニタリングにつながる。(鎌田)
6.その他
・マングローブのポテンシャルマップを作成した。70年代に中須賀先生が調べた分布データと環境省の分布データを元に、生育しやすい湾を抽出した。資料が見つからないため、後日送る。(鎌田)
・モニ1000や1/25000植生図の使い方を示していく必要がある。(鎌田)
・日本の湿地500は基礎データとして重要であり、ポリゴンデータをダウンロードできるようにすべきである。指定するだけでは駄目である。(鎌田)
・自然環境データが多様性戦略にこう使われているというのを示す必要がある。(鎌田)
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◆ 羽田着。午後から霞ヶ関、環境省で「生物多様性評価の地図化に係わるヒアリング」。その後、夕方から新橋で「環境省 植生図」の修正方針についての打合せ。使える地図について考える一日。さて、ユーザーはどんな人? 国土管理としての生態系管理とは? 管理主体と担い手は? 11/12/05 11:22
◆ 日比谷公園,紅葉がきれい.通りすがりの人たちが足をとめて写真をとっていく.都市の中の生態系サービスか. 11/12/05 12:34